したたかなるグレー

 

黒でもなく白でもなくグレーのバッグ。そのしたたかさは優しくも芯の強さを表すような。

すべてお客様のご要望通りに作り上げるフルオーダーもあれば、すべてお任せというフルオーダーもある。今回のオーダーはその中間という位置づけで。グレーなだけに。ね。

せっかくのフルオーダーだからあれもこれもと付け足したいという人もいるけれど、彼の希望はシンプルなものだった。開口部分もファスナーではなくホックが一つあればいい。多機能なポケットよりも外と中に一つずつあればいい。

2つだけ希望があった。ショルダーとバックパックの2ウエイとして使えるバッグとして。もう一つは鯉のアートワークを希望された。基本のショルダーの金具をかけ変えるとバックパックに変身するバッグ。

彼は黒革を希望した。しかし黒革では電気ペンで描いてもわかり辛いため、グレーの革を選ばれた。当初は電気ペンの予定でしたがどうもしっくりいかず私はカットワークでのカービングにすることにした。結果として良かったかも。

鯉はなるべく大きめでのこと。少しでもやりすぎるとタトゥーのイメージになってしまうから抑え気味で仕上げてみた。鯉を選ばれたのは彼の名前に由来して。

昇り鯉‥‥その昔、急流の滝を登る鯉は竜門をくぐり天まで登って竜になるという中国の登竜門という故事が元になっており、日本ではめざましく出世することを意味するものとなり、鯉のぼりもそこから由来されているそうだ。

グレーの革をベースにショルダーやアクセントに黒を。

 

 

走り出したら止まれない。終わるまで終われない。

想像と創造。妄想と構想。

その革を手と目でなでまわしながら使う人がこのバッグを持っていることをイメージして。

形にしていく。