小さな革工房物語 2020.10

ある日の朝のことです。“紙袋のような革袋”をくしゃくしゃに加工した“くしゃくしゃトート”を4台まとめてギフト用にお買い上げされたジェントルマンがご来店されました。

そこへジャンクハーレーでやってきたのは、カスタムするための工具入れを探しに来られた明るく元気なマッチョマン。後ろの荷物入れに詰め込まれて“紙袋のような革袋”はあっという間に連れ去られてしまったのです。

慌てて追いかけたのですが間に合いませんでした。 まるで目に見えそうなほどのものすごいマフラー音を響かせて消えてしまいました。 すると程なく久しぶりの常連様が“紙袋のような革袋”のお供を連れていらっしゃいました。

「この黒い長方形の物体を収納するケースを探しているんだが…」というご相談でした。

私は迷わず“封筒型のケース”を作らせていただきますと胸をたたきました。

そこへふらりとやってきたのは森へ栗拾いに行く途中だという“レジ袋のような革袋”を持ったお嬢さん。

そばにいた常連様のお供たちはその様子を不思議そうに眺めていました。その育ち具合のたまらない紙袋のような者はこう言いました。

「栗の季節はもう少し先だよ」と。

もう一人の“牛革の持ち手くり抜きタイプ”は「 赤い頭巾をかぶったおばあさんのふりをした奴には気を付けるように」と低い声で忠告をして行きました。

そして 後日完成した“封筒型のケース”をお送りしました。

しかし、あとでわかったのですが充電用の差し込み口のホールを開けるのを忘れていたのです。製作したものをお送りし、しばらくたってからそのことを思い出したときはハッとして落ち込んでおりました。 大失態です。店主クビかもしれません。

そこへ久しぶりにやってきたのは長旅から戻ってきた村の長老でした。私はお預かりした“ヌメ革のショルダーバッグ”を慎重にメンテナンスさせていただきました。

長旅の疲れを取ってもらうべくしっかりと湯船につかってもらい、たっぷりと栄養を取ってもらって上質のパックを施させていただきました。 すると何ということでしょうか。

くたびれていたのが嘘のように若さみなぎる成年へと変身したのです。まるで魔法のような出来事でした。よみがえった長老、いや、青年は走って帰っていきました。

工房へ戻ると別の青年が革を選び、穴を開け黙々と手縫いで縫っておりました。

聞くところによると青年はレザークラフトは初めてだというのです。それなのに“スマホケース”を自作したいとのことでした。満足のいくものができて笑顔で去っていきました。

一方その頃、別室では皆が静かに製作に集中しているではありませんか。

彼らの興味は私ではなくひたすら革と向き合って紙袋のようなもの?ん?これは“紙袋のような革袋”のセミオーダーです。ユニクロの紙袋と同じようなサイズと開口部も細かめのギザギザカットと持ち手まで細めにというご要望でした。

その一方ではくるくると丸めたワンショルダーを作り続けているのでした。

“牛革の紙袋のようなワンショルダー”のセミサイズが完成です。

そこへ現れたのはなんとも大きなトートバッグを持った女神だったのです。

私は尋ねました。「その黒い牛革に紫のコントラストはとてもインパクトがあるトートバッグですね。」

女神は言いました。「これはただのトートバッグじゃないのよ!バックパックにもなる“バックパックトート”なのよ!!」

「それはそれは恐れ入りました」よくよく見せてもらうとそのバッグは開口部分がオープンファスナーに。サイドファスナーは上下オープン仕様で背負ったままで右からお財布や鍵がリールキーで取り出せるというのです。

そのあとにお越しになった方は止水ファスナーの“L型のコインケース”を牛革と豚革の2台まとめてご注文とはなんて大人な方なのでしょうか。

ズボンのポケットに入れるので薄くて軽くて丈夫なこと。この条件が難度を高める出来事となりました。

その日の夕方完成したのはボストンバッグ型の“包丁バッグ”2台です。別々の方から少しだけサイズ違い、色違いというご希望でしたが仕上がりはさすが牛革です。

それはもうシュッとした仕上がりとなりました。“包丁バッグ”が同時に2台。偶然かと思いましたがもしかしたらわざと別々に注文をして武器でも入れて移動するものかもしれません。そう、二人はスナイパーかも。なのでここはあえて詳しく聞かないことにしましょう。

“レジ袋のような革袋”のブラック×ブラックにオリジナルロゴの真鍮プレートを付けて欲しいというご依頼でした。あれはきっと旅の途中の若者です。お守りにロゴプレートを付けてみたかったのでしょう。


あなたのその台本を守るために私たち“台本カバー”は日々、様々なバリエーションのセミオーダーに応えて生まれていきます。

そして今日も新しいご主人のもとへと旅立っていくのでした。

10月は溜まっていたフルオーダーの製作ラッシュでした。店舗にご来店のお客様もお天気に恵まれて活気のある1ヶ月でした。ありがとうございました。

今月から隔週土曜日に “フルリ”さんが お花を持って来てくれます。ゆるりとオープン予定です。お部屋にお花を飾ってみませんか。

花と革。素敵な空間ですよ。

新たな気持ちで始まったカワリコモノアスタリスクは(日替わりの)サポートスタッフ7名と新しい工房での毎日がスタートしました。 たわごとを言えるくらいやっと日常に戻ってきたような10月の一コマでした。