工房の近所にはいつもよく行くお店があります。そこで出会う方たちは本当に楽しい人ばかりです。
いつもご夫婦でいらっしゃるその方と久しぶりにお会いした時の事。おもむろにお店のランチョンマットの紙に手書きで書いたバッグの絵とどこかのバッグの写真が載った切り抜きを私に手渡したのです。
このイメージでバッグを作って欲しいと。
彼はアートディレクターのお仕事の方だと聞いていたような記憶があったのでイメージ出来ている人とは話が早い!ということで二つ返事でOKしたのです。
少しだけ大きめのショルダーバッグは開口部分がファスナーであること。肩からも斜め掛けにもできること。しっかり収納できること。とにかく軽いのが希望ということでした。
ところが片面は赤!片面は青で!自分の使っているロゴを抜き文字にしてほしいとのこと。
赤×青なんて赤鬼と青鬼もびっくりする色の組合わせじゃないですかっ!
不安半分の私は素材を見に彼に工房まで足を運んでもらいました。薄手の革はイメージに合っていたのですが
素材を確認してもらったら赤×グレーにしようということに決定しました。
(私史上、最も派手派手なバッグは回避できましたが)
きっと彼には仕上がりのイメージまでできていたのでしょう。
基本の形は2wayトートバッグと同型のマチを内側にたたみ込むタイプで。見た目はスリムですが結構な量が収納出来ます。
問題は抜き文字です。カービングでもなくヒートペンでもなく本体の革に文字を切り抜いて裏から違う色の革を張りステッチをかけるという…。仕上がりを間違えればハンドメイド感たっぷりのアートすぎる方向に走りそうな予感もしながら製作に取りかかりました。
赤×グレーというそれだけでも見た目のインパクトと意外性のあるバイカラーのバッグ。仕上がってみると私が想像していた以上のまとまりのあるものになりました。
アシンメントリーという釣り合いの取れていないアンバラスさが人の心に残るという遊び心のあるデザインを。
ひらめきと思いつき。
迷ったら一度手を止めて離れて見てみる。
チーズのように熟成させることでより良い方向になるという。
納品の日の夜。普段は無口な彼は笑顔で語ってくれたのでした。