小さな革工房物語 2021.12

人生は驚きの連続です。

誰が予想していただろうか。オリンピックの新種目で史上最年少が金メダルを取る事を。誰が想像していただろうか。バッターとピッチャーの二刀流をメジャーリーグで見事に成し遂げるとは。誰かが想像していただろうけど民間人が宇宙へ旅行へ行く日が来るなんて。

この住宅街の小さなお店に行列ができたなんて誰も想像していなかったはず。自分達の想像を超える出来事ってまさにこういう事。

今年を振り返ってすぐに思い出す“その瞬間”ってなんでしょうか。人それぞれ思い返すものは違うでしょうが、真っ先に思い出すもの。それがあなたの2021です。

緊急事態宣言下の中で今は耐える時、じっくり製作に向き合う時だと自分自身に言い聞かせて作ることに専念していた2月。3月に入りテレビ番組の取材が入り、特殊な商品なので知ってもらえるきっかけになればと軽い気持ちで受けたのですが…。

3月末にクラフターの友人が連れてきてくれた方と一緒に空を見た日は偶然にも最強強運日でした。 そこからはご想像通りです。(いえ、私自身、想像してませんでしたから。ご想像以上です)

慌てて先輩の革屋さんに電話をして毎日のように革を送ってもらってました。確保してもらっている革は残り300枚弱。これが尽きたらメインの商品に使う革がなくなってしまう。この商品に見合う革が見つからなければもう終わりかも。

そんな時でした。4月の末のある日、その革屋さんから突然電話があり、先輩が今朝亡くなったと。何が起きたのかまったくわかりませんでした。前の夜もLINEでやり取りしていたのに。私の為に新しい革を探してくれていたのに。店が忙しくなり一緒に喜んでいてくれたのに。たまに仕入れに行っても忙しい時は言葉数少ないけれど、時間のある時は革事情やタンナーさん事情を熱く教えてくれたり、時には漉き機の扱いの相談に乗ってくれたり、本当に尊敬すべき先輩でした。

先輩の作品です。唯一無二なまねの出来ないフォルムに釘付けになったのを覚えています。(先輩といっても私より若いイケメンで先生で賞を取るほどのレザーアーティストなのです)

それから1週間ほどして不思議なご縁で新しい革に偶然出会う事ができたのですが、先輩が引き寄せてくれたような気がしてなりません。「この革ならミトさんところにあってるんじゃない〜」なんて。

(新しい素材で生まれ変わった“紙袋のような革袋”はゆっくりとエイジングを楽しめるまさに「育てる紙袋」)

窮地に立って背中を押されたような気持になりました。この瞬間から私のやる事はやれる事をやるになったのです。早とちり、うっかりミス、店長失格な事の多い私ですが、お客様に感動してもらう事を全力でやる事です。後悔のないように。

たくさんの人に助けてもらった一年でした。サポートスタッフの皆はいつも笑わせてくれる癒しの存在です。家族や友人、知人の知り合いの人や常連さんやご近所さんまで。暖かいご飯の差し入れもご飯が涙でしょっぱかったです。みんなありがとう。ありがとうございます。感謝だけでは足りないくらい。

カワリコモノアスタリスクのウェブストアには一風変わったギフトラッピングがあります。 “自分に〇〇用”とか“こんな時だから気持ちを上げていこう用”など。今年はこの“気持ちを上げていこう用”を選んでくださる方が多かったのが印象に残ってます。 そのテーマにあったプレイリストが読み込めるQRコードのカードも好評です。バースデーギフトを受け取った娘さんがお父さんへ電話越しにプレイリストの曲を聴かせてもらったという嬉しいご報告のお電話をいただきました。私の方が嬉しくなりました。

年末の最終営業日は胸を張ってお店を閉めたかったのに、最後の最後にウイルス性胃腸炎にうっかり負けてしまいました。念の為、PCR検査もして陰性でホッとしました。 この一年、沢山のお客様にお越しいただき、カワリコモノアスタリスクを知っていただきありがとうございました。来年はこのご縁をしっかりとつなぎ感動してもらえるモノづくりを目指していきます。